石坂浩二の金田一耕助シリーズ(角川映画)『犬神家の一族』(1976年)は、横溝正史ブームの火付け役となったミステリー映画の金字塔。佐清の白マスクや水面から突き出た足など、強烈なインパクトで社会現象を巻き起こしたおどろおどろしい陰惨な世界観を持つ伝説のトラウマ怪奇映画。ミステリーとホラーが絶妙に融合した昭和時代の『犬神家の一族』のトラウマシーン(猟奇的殺人シーン・死体・最恐の瞬間など)と名場面・見どころのまとめ。
石坂浩二の金田一耕助シリーズ(角川映画)『犬神家の一族』(1976年) / 横溝正史ブームの火付け役となったミステリー映画の金字塔。おどろおどろしい陰惨な世界観を持つ伝説のトラウマ怪奇映画。
『犬神家の一族』は1976年に公開された日本映画で、横溝正史の作品を映画化したもので、角川映画の初作品であり、市川崑監督・石坂浩二主演による金田一耕助シリーズの第1作でもある。「波立つ水面から突き出た足」のシーンや、不気味な白マスク姿の佐清などの印象的な場面が多く、主題曲「愛のバラード」も有名である。
犬神家の一族(1976)予告編
信州財界のフィクサー・犬神佐兵衛が残した謎の遺言状。犬神財閥の巨額の遺産を巡って、血塗られた連続殺人が起こる。犬神家の家宝である 斧(ヨキ)・琴(コト)・菊(キク)に隠された秘密とは?名探偵・金田一耕助が解き明かす血の系譜、そして意外な真相とは!?
『犬神家の一族』は、1976年(昭和51年)10月16日に公開された日本映画。横溝正史作による同名の長編推理小説の映画化作品の一作。1970年代中頃から1980年代中頃にかけて一種のブームとなった角川映画の初作品であり、市川崑監督・石坂浩二主演による金田一耕助シリーズの第1作でもある。金田一耕助を初めて原作通りの着物姿で登場させた映画としても知られる。
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不気味な白マスク姿の「犬神佐清(すけきよ)」は、あまりにも有名なトラウマキャラ…松子「佐清(すけきよ)、頭巾を取っておやり!」「佐清(すけきよ)、この薄情の人たちに仮面をめくっておやり!」のくだりで視聴者は2回驚かされる!グロテスクすぎる素顔に度肝を抜かれた…映画史に残る恐怖のトラウマシーン。
犬神 佐兵衛(いぬがみ さへえ)の残した遺言状が「古館弁護士(小沢栄太郎)」によって読み上げられる。
犬神佐兵衛の顧問弁護士の古舘恭三は、黒い頭巾をかぶっており素顔を見れない犬神佐清(すけきよ)が本人であることを確認しなくても良いのかと聞くと、竹子も梅子も佐清(すけきよ)の顔を見なければ納得しないと言い出す。
不気味な白マスク姿の「犬神佐清(すけきよ)」は、一度見たら忘れられないトラウマキャラ。
松子(高峰三枝子)「佐清(すけきよ)、頭巾を取っておやり!」
頭から黒い頭巾をかぶった異様な男である犬神佐清が黒い頭巾を取ると…なんと不気味な白いマスクで覆われた頭部が現れた。「きゃあ!」と竹子の娘の小夜子が悲鳴をあげる。一同は騒然とする。
不気味な白いマスクで覆われた「犬神佐清(すけきよ)」。一度見たら頭に焼き付いてしまい一生忘れないほどの、あまりにも強烈な伝説のトラウマキャラクターの誕生。
特に石坂浩二の金田一耕助シリーズ(角川映画)『犬神家の一族』(1976年)は、おどろおどろしい陰惨な世界観を持つ伝説の「トラウマ怪奇映画」として名高い。白マスク姿の「犬神佐清(すけきよ)」を見て、驚きの表情を見せる野々宮珠世(島田陽子)。犬神佐兵衛の遺言が犬神家の全財産は、野々宮珠世が犬神佐清、犬神佐武、犬神佐智の中から配偶者を選べば彼女に譲られるとしていたことから、血で血を洗う莫大な遺産をめぐる争いのまっただ中に身を置くことになってしまった。
犬神佐清は徴兵されてビルマでの戦いに参戦したが、そのときに顔に酷い火傷を負ったために、白いゴムマスクをつけている。頭部全体を隠す無表情で不気味なマスクが使用され有名になった。
「佐清(すけきよ)」は戦争で顔を負傷しマスクをかぶっているため本人かどうか疑わしいと家族が言い出し争いになる。不気味な白マスク姿の佐清(すけきよ)はあまりにも有名なトラウマキャラ。
松子「佐清(すけきよ)、この薄情の人たちに仮面をめくっておやり!」…早くも本作品の「最恐の瞬間」が訪れる。
黒頭巾をかぶった異様な姿→不気味な白マスク姿→あまりにもグロテスクすぎる「佐清(すけきよ)」の素顔に視聴者は度肝を抜かれた。みんなのトラウマ。
ビルマ戦線で「どえらい傷」を負ったマスク姿の「佐清(すけきよ)」(正体は、青沼静馬)の素顔は原作では顎の辺りは無傷で鼻の代わりに赤黒い肉塊があるとされているが、本作では右側の顎の下にまで焼け爛れた傷があり、鼻も完全になくなっている。
佐武(すけたけ)(地井武男)の死体が発見される。/ 犬神家の家宝「菊」を見立てた殺人。猟奇的な連続殺人…血みどろの遺産相続の惨劇が始まった。
犬神家の家宝「斧(よき)、琴、菊」(よきこと聞く)になぞらえて起こっていく猟奇的連続殺人事件。
佐武(すけたけ)(演:地井武男)の死体が発見される。菊人形の生首と犬神佐武(すけたけ)の生首がすげ替えられていた。
恐れおののく金田一耕助「う、うわああああああああああ!ああああ!」佐武の生首がボトリと落下する。ホラー映画レベルの恐怖シーン。
佐智(すけとも)は、珠世(島田陽子)をレイプしようとするが…
「野々宮珠世」を厚遇するという佐兵衛の奇怪な遺言の影響で、佐武と佐智は、珠世を手に入れようと近づくが・・・
眠らせて珠世(たまよ)(演:島田陽子)を犯そうとする佐智(すけとも)。
謎の復員兵(実は本物の佐清(すけきよ))が助けに来て、佐智(すけとも)は復員兵にボコボコにされる。復員兵の男は、珠世を助けたのちに、犬神家に電話を入れ、猿蔵に珠世を引き取りにくるように伝えます。
翌朝、佐智(すけとも)の屋敷の屋根の上で、佐智の死体が発見される。/ 犬神家の家宝「琴」を見立てた殺人
翌朝、佐智(すけとも)の屋敷の屋根の上で、佐智の死体が発見される。佐智は琴糸で首を絞められていたが、付近に争った痕跡がないことから、別の場所で殺され、この場所に運ばれたと思われる。
佐智は琴糸で首を絞められていた。犬神家の家宝「琴」を見立てた殺人。
行方不明の佐智を探して天井裏に入り込んだ犬神小夜子が、明かり取りの窓を通して佐智を発見する。この佐智殺害の影響で彼女は正気を失ってしまう。佐智の死に様を盛り上げる小夜子の絶叫シーンは語り草になっている。ホラー映画の有名な絶叫クィーンにも負けないレベル。
佐智は「琴糸」で絞殺されるときの抵抗で松子(高峰三枝子)の指を噛み切った。
物を見ることはできない琴の師匠(岸田今日子)だが 、その分、ごく微妙な差異でさえも常人の数倍以上聴き分けてしまう。琴の師匠が佐智殺害時における松子のアリバイ崩しの証言をする。
琴の師匠は、松子婦人(高峰三枝子)の今日の演奏はいつもと、どこかが少し違うことを感じていた。佐智絞殺時に噛まれて負傷した指が演奏に影響を与えていたのだ。
青沼菊乃を痛めつけて家宝を奪い取る梅子(草笛光子)、竹子(三条美紀)、松子(高峰三枝子)の3人の娘が鬼畜すぎる。映画史に残る陰惨なトラウマシーン。
梅子(草笛光子)、竹子(三条美紀)、松子(高峰三枝子)の3人の娘は、青沼菊乃(大関優子=佳那晃子)を散々痛めつけて家宝を奪い返した。
菊乃が住む別宅に乗り込んできた激怒した佐兵衛の三人娘(松子、竹子、梅子)。三人娘は、菊乃を散々痛めつけて家宝を奪い返した。
梅子(草笛光子)、竹子(三条美紀)、松子(高峰三枝子)の3人に痛めつけられ、責め苛まれた青沼菊乃…あまりにも陰惨な虐待劇。
竹子「私たち3人は、3人とも母が違っております。 生涯父の正妻になれず、ただその時々の男の欲望を満たす道具として、父に飼われていたような3人の母でした」だが佐兵衛は、老いてから出来た愛人・青沼菊乃にだけは深い愛情を注ぎ、生まれた静馬に家宝の「斧琴菊」を与えてしまった。激怒した3人の娘たちは、ある日菊乃が住む別宅に乗り込んで行き、菊乃を散々痛めつけて家宝を奪い返した。
3人の娘たちに凄惨な仕打ちを受けた青沼菊乃・静馬の母子の復讐?
青沼菊乃は呪詛を吐く「お前たちを呪ってやる、必ず、必ず…恨みをはらす…」
竹子は、佐武(すけたけ)と佐智(すけとも)が殺害されたのは、青沼母子がその時の復讐をしているのではないかという。菊と琴糸は、「家宝を奪われた恨み」という意味ではないか、と。
佐兵衛は菊乃と産まれたばかりの静馬に家宝(犬神家の全相続権を示す家宝の斧(よき)と琴(こと)と菊(きく))を渡して、とある百姓家の離れに隠すが、居場所を知った松子たちに襲撃されてしまい、凄惨な仕打ちを受けた。そのことで菊乃は静馬を連れて佐兵衛の前からも那須地方からも姿を消した。
古館の調査で、青沼菊乃はすでに死んでいることがわかっているが、青沼静馬は戦争に行ったきりで、生きているのか死んでいるのかさえわかっていない。
早合点を繰り返す橘署長(加藤武)「よおし、わかった!犯人は青沼静馬だ!」
橘署長は、謎の復員兵が青沼静馬で、遺産を独り占めするために2人の孫を殺したに違いないと結論付ける。
その後も、犯行現場付近には、いつも珠世と猿蔵の姿があったため…「よーしわかった!犯人は、珠代だ。」「よーしわかった!犯人は、猿蔵だ。」「よーしわかった!犯人は、復員兵だ。」と犯人を間違い続けた。
加藤武は、『犬神家の一族 (1976年の映画)』『悪魔の手毬唄』を始めとする金田一耕助シリーズでは役名が毎回異なるものの、粉薬が手放せず、イチイチ大仰な身振りで「よしっ!分かった!」と手をポンと叩きながら早合点を繰りかえす警察幹部を好演した。
犬神家の一族(1976年) – 橘署長
悪魔の手毬歌(1977年) – 立花捜査主任
獄門島(1977年) – 等々力警部
女王蜂(1978年) – 等々力警部
病院坂の首縊りの家(1979年) – 等々力警部
マスク姿の佐清(すけきよ)の正体は? / 珠代(演:島田陽子)「松子おばさま、この人は佐清さんではありません」
松子「珠代さん、決心はついたわね?佐竹さんと佐智さんがあんなことになってしまった今、あなたが結婚する相手はこの佐清しかいないのよ。さあ、最後のお返事を聞かせて頂戴」
珠代(演:島田陽子)「お断りします」
松子「何ですって!?あなた自分が何を言ってるのかわかってるの?佐清との結婚を拒んだら、あなたは遺産に関するすべての権利を失ってしまうのよ?」
珠代(演:島田陽子)「松子おばさま、この人は佐清さんではありません」
マスク姿の佐清(すけきよ)の正体は、青沼静馬だった…衝撃的などんでん返し!マスク姿の偽佐清が「青沼静馬だよ…」と正体を明かすシーンは、映画史に残る恐怖のトラウマシーン。
松子「佐清、お前が私の息子じゃないなんて、そんなバカな。珠代の言ったことは嘘だよね?」
マスク姿の佐清(すけきよ)「フフフ・・・珠代の言ったことは本当だよ。あんたの大事な佐清さんは、とっくにどこかへ消えちまったよ!」
松子「お前は一体・・・」
マスク姿の佐清=青沼静馬「青沼静馬だよ。あんたとあんたの妹たちに痛めつけられ、責め苛まれた青沼菊乃の息子、静馬さ!お袋が死んだのは俺が9つの時だ。最後まであんたたちを呪っていた、この犬神一族をな。俺は自分に誓った、必ず復讐してやる、お袋の恨みを晴らしてやるってな!」
マスク姿の佐清が「青沼静馬だよ…」と正体を明かすシーンは、映画史に残る恐怖のトラウマシーン。
青沼静馬「いいヤツだったよアンタの息子は…戦争がひどくなってオレたちの部隊は離ればなれになった。ヤツの部隊は全滅した。オレも顔にどえらい傷を負って死にかけた…声も…
犬神一族への恨みだけがその時のオレを支えていたんだ‼︎オレは佐清になり代わって犬神家を乗っ取ってやろうとその時、決心したんだ‼︎ハッハハハハハハハ、アッハッハハハハハハハハ…」
偽の佐清の正体は青沼静馬だった。本物の佐清(すけきよ)の母親をかばう気持ちを利用して、母親の青沼菊乃の復讐をすると同時に犬神家を乗っ取ろうとしていたのだ。
返り血として顔面への大量の血しぶきを浴びる…松子(高峰三枝子)は、青沼静馬を斧で殺害する…映画史に残る凄惨なスプラッター演出として名高い。
勝ち誇っている青沼静馬「この家のものはひとつ残らず、俺のものだ。珠世も遺産も、何もかも!」「勝ったんだ!俺は犬神一族に勝ったんだああ!」
青沼静馬は手元に偶々あった斧で松子(高峰三枝子)に殺害された。凄まじい量の血しぶき…松子は返り血を浴びる。映画史に残るトラウマ必至の恐怖シーン。
犬神家に対して怒りと恨みを抱く青沼静馬に対して、松子夫人は逆上し、静馬の後頭部を背後から、斧で打撃した。松子(高峰三枝子)は、返り血として大量の血しぶきを顔面に浴びる。
斧による一撃の返り血…顔面への血しぶきを浴びる松子。
佐清の逆立ち死体…「波立つ水面から突き出た足」のシーン / にせスケキヨ=青沼静馬の逆立ち死体は、映画史に残る伝説の「死に様」
翌日、湖で佐清の逆立ち死体が発見される。映画史に残る伝説の死に様。一度見たら忘れられない。にせスケキヨ=青沼静馬は、足だけを突き出した奇妙な姿で発見された。
佐清の逆立ち死体を発見した犬神小夜子の名セリフ「面白いことしてるわねぇ、あたしも仲間にいれてよぉ」
佐智殺害で正気を失って徘徊していた犬神小夜子が湖上の倒立死体(にせスケキヨ=青沼静馬)を発見する。本物のウシガエルを抱える小夜子の名シーン。犬神佐清(にせスケキヨ=青沼静馬)の死に様は、足だけを突き出した奇妙な姿(逆立ち死体)。映画史に残るもっとも有名な死に様(印象的な死に方)。
これは「スケキヨ」を反転して「ヨキケス」とし、水没した頭側の二文字を消した「ヨキ」(斧(よき):犬神家の家宝「斧・琴・菊」の一つ)を表す一種の見立て殺人であった。
耕助は、佐清の指紋をもう一度取れと署長に進言する。鑑定の結果、佐清と思われた水死体の指紋は奉納手形とは一致しなかった。
水面から引き上げて、顔面に付いていた泥が洗われると、焼けただれたグロテスクな素顔が…。この顔面の損傷が激しい水死体=マスク姿の佐清の正体は、実は行方不明だった青沼静馬だった。
指紋を採取するこの時は、偽スケキヨの青沼静馬と本物の犬神佐清がすり替わっていた。
耕助「すりかわったんですよ。あの仮面を巧みに利用して、本物と偽者がすりかわっていたんですよ」
「じゃあ今朝の逆立ち死体は何者なんだ」
耕助「(青沼)静馬ということになりますね」
「そうか、わかった! すると犯人は佐清だ」
真相を語りだす金田一耕助 / 「佐清と珠世の結婚」という犬神 佐兵衛(いぬがみ さへえ)の望む結果になった。
金田一耕助「あなたと竹子さん、梅子さんの姉妹は遺産相続人からはずされていた。そこで、あなたは自分の息子の佐清君を珠世さんと強引に結婚させ、遺産を独り占めしようとして殺人を決行した。
しかし、あなた、その珠世さんが佐兵衛翁の本当のお孫さんだということをご存じですか。」金田一耕助「僕はこう想うんです。あなたは、佐兵衛翁の望んだこと(佐清君と珠世さんが結婚して全財産を相続すること)をあなたの手で実行してしまったんですねぇ。」
佐兵衛の遺した遺言の真意…実は本当の孫である野々宮珠世に莫大な恩恵を与える遺言
神官夫妻の「野々宮大弐」と「野々宮晴世」と17歳の「犬神佐兵衛」の三角関係こそが物語の核心。隠されていた血縁関係。
佐兵衛の遺した遺言は、家族より恩人の「野々宮大弐」の孫である「野々宮珠世」を厚遇するという奇怪な内容だった。
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- 犬神家の全相続権を示す家宝『斧(よき)・琴(こと)・菊(きく)』の3つを野々宮珠世(佐兵衛の恩人・野々宮大弐の孫)に与えて、珠世が佐清、佐武、佐智の佐兵衛の3人の孫息子の中から配偶者を選ぶこと。
- 珠世が結婚を拒んで相続権を失うか死んだ場合は、犬神家の財産は5等分され3人の孫息子は各5分の1ずつを相続し、残り5分の2を佐兵衛の愛人・青沼菊乃の息子の青沼静馬が相続すること。
物語の核心:隠されていた血縁関係(哀しき愛の形)…野々宮珠世の母の「野々宮祝子(のりこ)」は、実は野々宮大弐の妻「野々宮晴世」と「犬神佐兵衛」の娘(長女)。ゆえに「野々宮珠世」は、佐兵衛翁の本当の孫であった。
佐兵衛は野々宮大弐の妻・野々宮晴世と恋に落ち、男女の関係になってしまう。大弐への申し訳なさから、佐兵衛と晴世は自殺を図るが、大弐に止められて、その後は大弐公認の仲となり密会を続け、やがて野々宮祝子(のりこ)が生まれた。つまり野々宮珠世の母の野々宮祝子(のりこ)は大弐の妻晴世と佐兵衛の娘。
佐兵衛にとって野々宮祝子(のりこ)こそ表沙汰にできぬ犬神家の長女であり、彼女は佐兵衛が最も愛した女性・野々宮晴世との子供だったが、立場上、佐兵衛は祝子を娘と呼ぶことはできなかった。
終生を日陰の花として送った野々宮晴世と佐兵衛の長女でありながら貧しい神官の妻で終わった野々宮祝子に対する佐兵衛の後悔と憐憫の情が野々宮珠世に莫大な恩恵を与える遺言につながった。
幼い頃から野々宮珠世と佐清が相思相愛であることを知っていた佐兵衛は、珠世と佐清を結婚させることで、珠世を犬神家の一族に迎え入れてその将来を安泰させ、良識的な佐清の性格からしても財産を独占しようとせず、佐武たちにも悪くはしないだろうと目論んでのことと思われる。野々宮珠世は、犬神家の家宝「斧(よき)、琴、菊」(よきこと聞く)を犬神佐清に渡した。犬神佐清が後継者に決まる。佐兵衛の目論見通りとなった。
自分勝手な性格のクズ人間が多い犬神家の中で「佐清」(すけきよ)は、唯一、優しくて良識的な好青年であり、犬神家への復讐に燃える闇落ちした青沼静馬が「いいヤツだったよアンタの息子は」と例外的に言うほどの好青年である。また母親の松子の罪を全部被ろうとするほど親思いでもある。
佐兵衛の本当の孫である「珠世」とはとてもお似合いのカップルであり、これで犬神家は安泰だろう。陰惨な遺産相続の事件だったが、善人中の善人である「佐清」と「珠世」の結婚という希望で終わるため、後味は悪くない作品となっている。比べると悪魔の手毬唄の方が悲劇性は高い。
三親等内の結婚が禁止されているだけで、四親等以降の傍系血族とは、結婚可能なので、佐兵衛の孫同士の結婚(いとこ同士)は、可能となっている。
3人の妾たちにとっては操と尊厳を蔑ろにされ、妾たちも佐兵衛の愛情はいらないが我が子に遺産がいくことを心の拠り所にするしかなく、松子、竹子、梅子の娘たちも母親たちの恨みを受け継ぐことになり、結果的に血で血を洗う遺産相続の惨劇を巻き起こすこととなった。
「スケキヨ…、珠世さんを父の怨念から…、解いておやり!」
珠世が佐清に家宝を贈り、佐清が犬神家の後継者に決まったことを見て安心した松子は、すべての罪を清算すべく、若林を殺した毒を仕込んだタバコを吸って自殺。
犯人と看破した金田一耕助は「しまったぁぁぁ!!…煙草だ…若林さんを殺したのと同じ毒がこの煙草に仕込んであった!」と松子の死を止められなかったことを悔やむように叫んでいる。
1976年公開の角川映画第1作『犬神家の一族』のテーマ曲「愛のバラード」は、この時代特有の感傷深い思いを感じる哀愁漂う旋律によって、鮮烈なオープニング映像の気品を、映画全体の格調を、ひいては物語の核心である哀しき愛の形を、的確に表現していた。この曲を聴くだけで、あっという間にトラウマ怪奇映画「犬神家一族」の世界観に浸れる怪しげで儚げなメロディが素晴らしい。物語の冒頭で流れた時は怖さを引き立てられ、ラストに流れた時には物語の悲哀さを引き立てる‥‥「犬神家の一族」に恐ろしいほどマッチした傑作。